旧敵国条項 1995年の国連総会は「時代遅れ」と認め、2005年の首脳は「削除する」と決意 それでも憲章の条文はいまも残っている

テーマ:外交・国連|出来事:1995年12月11日(国連総会の決議)〜2026年9月22日(首相の国連演説)|最終更新:2026年10月31日

国連の決議と憲章は、国連のページと文書の原本(英語)で確かめました。日本語の訳は、このページの訳です。国会の発言は国会会議録の字です(# は会議録の発言番号)。

要点

  1. 「旧敵国条項」と呼ばれるのは、国連憲章の53条・77条・107条です。条文には「enemy state(敵国)」とあり、「第二次世界大戦中に、この憲章の署名国のいずれかの敵だった国」と定めています。国の名前は書いていません。(資料01)
  2. 1995年12月11日、国連総会は、この3つの条文が「時代遅れ(obsolete)になった」と認める決議を採択しました。投票は賛成155・反対0・棄権3。中国も賛成した国の一覧に入っています。決議は、憲章108条の手続きで条文を削る改正を「将来の最も早い適当な会期に」始める意思を示しました。2005年には、首脳会合の成果文書(総会決議 A/RES/60/1)が「敵国への言及を削除することを決意する」と書きました。(資料02・03・04)
  3. それでも、2026年10月25日に国連のページで見た憲章の本文には、3つの条文がそのまま載っています。条文を削るには、総会の3分の2の賛成で採択し、安保理の常任理事国5か国すべてを含む加盟国の3分の2が批准する必要があります(108条)。首相は2026年9月22日の国連演説で「同条項は早急に削除されるべき」と述べました。中国外交部は翌23日、この条項は「今もなお重要な現実的意義がある」と述べています。(資料01・05・09)

根拠

条文と決議の検算(国連の原本)

文書日付書いてあること(このページの訳)出典
国連憲章 53条―安保理の許可なしに、地域の取り決めや機関が強制行動をとってはならない。ただし「敵国」に対する措置は例外。「敵国」は、第二次世界大戦中に憲章の署名国のいずれかの敵だった国資料01
国連憲章 77条―信託統治の対象に「第二次世界大戦の結果として敵国から切り離される地域」を含める資料01
国連憲章 107条―第二次世界大戦中に署名国の敵だった国について、その戦争の結果として責任を負う政府がとった行動を、この憲章は無効にしない資料01
総会決議 50/521995年12月11日 採択(文書の日付は12月15日)53・77・107条の「敵国」条項は「時代遅れになった」と認める/条項の対象だった国は国連の加盟国で、国連の取り組みの大事な担い手だと記す/108条の手続きで、条項を削る改正を「将来の最も早い適当な会期に」始める意思を示す資料02・03
総会の記録 A/50/PV.871995年12月11日記録投票で賛成155・反対0・棄権3。棄権はキューバ・北朝鮮・リビア。賛成の一覧に中国・日本・ドイツ・イタリアなど。のちにアンゴラが「賛成するつもりだった」と事務局に伝えた資料03
首脳会合の成果文書 A/RES/60/1 第177項2005年9月16日 総会で採択決議50/52 を踏まえ、「憲章の53条・77条・107条の『敵国』への言及を削除することを決意する」資料04
国連憲章 108条―憲章の改正は、総会の構成国の3分の2の賛成で採択され、安保理の常任理事国すべてを含む加盟国の3分の2が、それぞれの憲法上の手続きで批准したときに、すべての加盟国について効力を生じる資料01

比べ方の注意

資料

番号資料種類確かめた日
01国際連合「Charter of the United Nations(全文)」
https://www.un.org/en/about-us/un-charter/full-text
公式資料2026-10-25(53・77・107・108条の本文を取得。3つの条文が載っていることを確かめた)
02国連総会決議 A/RES/50/52(1995年12月15日付の文書)
https://documents.un.org/api/symbol/access?s=A/RES/50/52&l=en&t=pdf
公式資料2026-10-25(PDF の本文を読んだ)
03国連総会 第50会期 第87回本会議の記録 A/50/PV.87(1995年12月11日)
https://documents.un.org/api/symbol/access?s=A/50/PV.87&l=en&t=pdf
公式資料2026-10-25(9〜10ページの投票の記録を読んだ)
04国連総会決議 A/RES/60/1「2005 World Summit Outcome」(2005年9月16日採択)
https://documents.un.org/api/symbol/access?s=A/RES/60/1&l=en&t=pdf
公式資料2026-10-25(第176・177項を読んだ)
05首相官邸「国連総会における高市内閣総理大臣一般討論演説」令和8年9月22日
https://www.kantei.go.jp/jp/105/statement/2026/0922enzetsu.html
公式資料2026-10-25(全文を取得して「敵国」で検索。触れているのは1段落だけ)
06国会会議録 衆議院 本会議 1996年1月22日 #17(池田外務大臣の外交演説)/参議院 予算委員会 2005年3月4日 #99(町村外務大臣)/参議院 外交防衛委員会 2005年10月11日 #12(町村外務大臣)/参議院 予算委員会 2006年3月24日 #136(麻生外務大臣)
https://kokkai.ndl.go.jp/txt/113605254X00119960122/17
https://kokkai.ndl.go.jp/txt/116215261X00520050304/99
https://kokkai.ndl.go.jp/txt/116313950X00120051011/12
https://kokkai.ndl.go.jp/txt/116415261X01620060324/136
会議録2026-10-25
07国会会議録 衆議院 外務委員会 2025年11月28日 #44・#45(原口一博議員の質問と茂木外務大臣の答弁)
https://kokkai.ndl.go.jp/txt/121903968X00220251128/45
会議録2026-10-25
08国会会議録検索システム
https://kokkai.ndl.go.jp/
会議録2026-10-25 に、発言の API で語「旧敵国条項」・期間 2025-10-01〜 を検索して4件(2025年11月26日の参院 憲法審査会1件、11月28日の衆院 外務委員会3件)。会議の一覧の API で期間 2026-10-01〜2026-10-25 を検索して28件。衆議院の本会議は10月5日の1件だけ
09中華人民共和国外交部「2026年9月23日外交部发言人郭嘉昆主持例行记者会」
https://www.mfa.gov.cn/fyrbt_673021/202609/t20260923_12029529.shtml
公式資料2026-10-25(本文を開いて、質問と答えの段落を読んだ)
10UN News「Russia blocks Security Council action on Ukraine」2022年2月26日。常任理事国を「China, France, Russian Federation, the United Kingdom, and the United States」と書く
https://news.un.org/en/story/2022/02/1112802
公式資料(国連のニュース)2026-10-25

国会のやりとり

字は国会会議録のとおりです。[中略]の所は、会議録の字を省きました。

1996年1月22日 衆議院 本会議(資料06)

池田行彦 外務大臣(当時)外交演説 #17

[中略]また、昨年十二月には、旧敵国条項の削除のための憲章改正手続を将来の最も至近の適当な会期において開始する旨の総会決議が採択されました。我が国は、今後とも、他の国連加盟国と協力しつつ、国連改革に率先して取り組んでまいります。

2005年3月4日 参議院 予算委員会(資料06)

町村信孝 外務大臣(当時)#99

[中略]当時の旧敵国である日本等々を念頭に置いたそういう文章が現在三か所憲章上残っております。五十三条、七十七条、百七条ということで、「敵国」又は「敵」という文言が用いられて、これらを一括していわゆる旧敵国条項という表現をしているところであります。
[中略]したがって、もうこれで死文化したのではないかという見方もありますが、やっぱりそうではなくて、[中略]最終的にはこれいずれも憲章改正ということにつながってくるわけでございます、[中略]

2006年3月24日 参議院 予算委員会(資料06)

麻生太郎 外務大臣(当時)#136

敵国条項につきましては、一九九五年の国連の総会で既に死文化しているとの認識を示す決議が圧倒的多数の賛成で採決をされております。
昨年の九月、国連首脳会議で採択された成果文書におきましても、同条項に関しましては敵国への言及を削除するとの決意が示されておりますので、私どもといたしましてはこの採択に積極的な役割を果たしましたが、今後、国連総会等の機会をとらえて、旧敵国条項を早期に廃止を訴えてまいりたいと思っております。

2025年11月28日 衆議院 外務委員会(資料07)

原口一博(立憲民主党・無所属)質問 #44

[中略]旧敵国条項について、まず外務大臣に伺いますが、もうこれは一九九五年の死文化決議、二〇〇五年の決議、それから二〇二二年と、実質ないのと等しいと思いますが、いかがですか。

茂木敏充 外務大臣 答弁 #45

国連憲章のいわゆる旧敵国条項、これは既に死文化している、こういう理解で結構だと思います。
同条項については、一九九五年の国連総会におきまして、時代遅れとなり既に死文化しているとの認識を示す決議が、圧倒的な賛成により採択をされております。また、二〇〇五年の国連首脳会合では、国連憲章から敵国への言及を削除するとの全加盟国首脳の決意を示す国連総会決議が、コンセンサスによりまして採択をされているところであります。

会派の名前は、会議録の会派の欄のとおりです。

それぞれの言い分(公式の発表から)

同時に、81年を経た国連憲章も見直されなければなりません。「旧敵国条項」について、2005年には、全加盟国首脳の決意として、国連憲章から「敵国」への言及を削除するとの国連総会決議が採択されています。この決議に従い、同条項は早急に削除されるべきです。70年間に渡り国連の取組に大きく貢献してきた日本の誇りと名誉にかけて、強く申し上げておきます。

日本政府の「死文化」と、中国外交部の「現実的意義」は、どちらも条文の受け止め方です。どちらの言い分でも、条文が憲章から削られていないことは変わりません。

経過

日付出来事出典
1995年12月11日国連総会が決議50/52 を採択(賛成155・反対0・棄権3)。「敵国」条項は「時代遅れになった」と認め、108条の改正手続きを始める意思を示す資料02・03
1996年1月22日池田外務大臣が外交演説で決議の採択を報告資料06
2005年9月16日国連総会が首脳会合の成果文書を採択。第177項で「敵国」への言及の削除を決意資料04
2025年11月28日茂木外務大臣が衆院 外務委員会で「既に死文化している、こういう理解で結構」と答弁資料07
2026年9月22日首相が国連総会の一般討論演説で「同条項は早急に削除されるべき」資料05
2026年9月23日中国外交部の報道官が「今もなお重要な現実的意義を持つ」資料09
2026年10月25日現在国連のページの憲章の本文に53・77・107条が載っている資料01
この後10月7日の衆院本会議の質疑(旧敵国条項の削除についての質問と首相の答弁)は、会議録に載ったらここに足します資料08

訂正の記録

なし

関連する解説動画

本編(13分11秒)
【旧敵国条項】高市首相「早急に削除されるべき」なぜ条文は消えないのか
https://youtu.be/P2zXKPgHimU

本編の章:

本編の第1章〜第5章には、選挙ドットコムちゃんねるの対談を使っています。中で話された見方は出演者のもので、このページの根拠とは別です。

確かめた所と読むときの注意

確かめた所

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